TRAFの話 第三回

IL-1シグナルにおけるTRAF6による二相性NF-κB活性化モデルの提唱

Yamazaki K., Gohda J., Kanayama A., Miyamoto Y., Sakurai H., Yamamoto M., Akira S., Hayashi H., Bing Su, Inoue J.
Science Signaling 2, Issue 93, ra66, October 2009

  • IL-1シグナルは炎症反応や免疫応答を誘導する

 細胞間情報伝達物質であるサイトカインのうち,IL-1は炎症反応や感染防御などの免疫反応において重要な役割を果たし,そのIL-1の過剰産生は癌の悪性化に寄与していることが知られています.そのため,IL-1のシグナル伝達機構に関する知見は免疫疾患や癌に対する治療薬の開発に大きく貢献すると考えられます.
 細胞膜上に発現しているIL-1受容体にIL-1が結合することにより細胞内でシグナル伝達が誘導され,活性化された転写因子NF-κBによって,サイトカインやケモカインが発現誘導されます.そのシグナル伝達(図1)において,ユビキチンリガーゼ活性(E3活性)を有するRINGドメインを持つアダプター分子TRAF6が重要な役割をしており,まだ未同定ですがユビキチン結合酵素(E2)を介して自己をK63型ポリユビキチン化します.このK63型ポリユビキチン鎖はプロテアソーム分解の標的ではなく,シグナル分子が複合体形成するための足場になると考えられており,下流のリン酸化酵素であるTAK1とTAB2の複合体がこのポリユビキチン鎖を介してTRAF6と結合することが知られています.この結合により活性化したTAK1がIKK をリン酸化することで活性化させ,続いてIKKがNF-κBの抑制因子であるIκBαのリン酸化,それに続くプロテアソーム分解を誘導することで,NF-κBの核移行を促し,転写活性を誘導すると考えられています.一方,TRAF6の下流に位置するリン酸化酵素であるMEKK3もTAK1と同様にIL-1シグナルに関与しており,IKKをリン酸化することでNF-κB活性を促すことが知られています.さらに,このTAK1とMEKK3は共にMAPK活性にも必須であることが解っており,続いてAP-1の活性化を誘導します.しかしながら,TAK1とMEKK3,そしてTRAF6の3者はIL-1シグナルに深く関与するにも関わらず,TRAF6下流でのTAK1とMEKK3の物理的相互作用や機能的関係については明らかになっていませんでした.本研究では,2つのリン酸化酵素(TAK1とMEKK3)の活性化機構の解析を中心として進めた結果,TRAF6による巧妙なNF-κB活性化の制御機構が明らかになりました.

図1 IL-1シグナルのモデル図

  • TAK1のK63型ポリユビキチン化はTAK1の活性化に必要である

 本研究では,TRAF6のE3活性に着目し,新規な基質分子としてTAK1を候補として挙げました.現在までにTGFβ刺激依存的にTAK1の34番目のリジンがユビキチン化される事が報告されていますが,NF-κB活性化シグナル依存的なTAK1ポリユビキチン化の報告はありません.そこで,HA-Tagの付いたK63型しか起こらないユビキチンの発現ベクター(HA-K63Ub)を,レトロウイルスを用いて安定発現させたマウス胎仔線維芽細胞(MEF) を樹立し,IL-1シグナル依存的なTAK1のK63型ポリユビキチン化の検出を試みたところ,IL-1シグナル依存的に増大するTAK1のポリユビキチン化が確認されました(図2A).また,このTAK1のポリユビキチン化はTRAF6とUbc13依存的であることをTRAF6欠損MEFとUbc13欠損MEFを用いた実験から明らかにしました.
 TAK1のポリユビキチン化の機能を明らかにするため,TAK1の特異的なポリユビキチン化部位の同定を試みました.多くの種間で保存されている7つのリジンを抽出し,それぞれのリジンをアルギニンに点変異させた7種類のTAK1 K/R変異体を構築しました.それらを野生型のMEFと同程度のTAK1発現量になる様に調整して,TAK1の欠損MEFに安定発現させ,さらにHA-K63Ubを安定発現させることで,生理的条件下におけるIL-1シグナル依存的なTAK1のK63型のポリユビキチン化を検出しました.すると,209番目のリジンに点変異を与えたTAK1(TAK1 K209R)のみにおいて,TAK1のポリユビキチン化が著しく減弱しました(図2B).これより,IL-1シグナル依存的なTAK1のK63型ポリユビキチン化はK209が修飾部位であることが分かりました.

図2 TAK1は209番目のリジンがK63型ポリユビキチン化される

 TAK1のポリユビキチン化のNF-κB活性化への関与を明らかにするため,TAK1欠損MEFにTAK1の野生型を発現させた細胞(TAK1 WT MEF)とユビキチン化されない変異体 TAK1 K209RをTAK1欠損MEFに発現させた細胞(TAK1 K209R MEF)に対して,IL-1刺激を与えました.TAK1 WT NEFと比較してTAK1 K209R MEFでは,TAK1の活性化(図3A),NF-κBのDNA結合能力(図3B),さらには,NF-κB活性の標的遺伝子であるIL-6のmRNA発現量(図3C)も著しく減弱しました.これらの結果は,Ubc13(E2)とTRAF6(E3)を介して生成されるTAK1のポリユビキチン化はTAK1自身の活性化とそれに続くNF-κBの十分な活性やIL-6産生に必要であることが示されました.

図3 TAK1のK63型ポリユビキチン化はTAK1の活性化に必要である

  • TAK1のポリユビキチン化は自身の活性化を促す複合体形成を誘導する

 TAK1のポリユビキチン化はどのような分子機構でTAK1自身の活性化を制御しているのでしょうか?本研究では,TAK1の活性化に必要な分子を同定することで,TAK1のポリユビキチン化によるTAK1の活性化の制御機構についての手掛かりを得ようと考えました.そこで着目した分子が上述のMEKK3であります.MEKK3はIL-1シグナルに関与する分子であり,またTRAF6とIL-1シグナル依存的に結合することが知られています.MEKK3の欠損MEFに野生型のMEKK3,又はリン酸化活性を消失させたMEKK3を安定発現させ,IL-1シグナル依存的なTAK1の活性化を検討したところ,野生型を発現させたMEFではTAK1の活性化が確認されたのに対し,リン酸化活性を消失したMEKK3を安定発現させたMEFとMEKK3の欠損MEFではTAK1活性化の顕著な減少が見られました(図4A).これよりMEKK3はTRAF6と同様に,TAK1の活性化に必要な分子であることが示されました.そこで,これら3分子が複合体を形成するのではないかと考え,IL-1シグナル依存的な免疫沈降実験を試みました.MEKK3抗体で免疫沈降したところ,IL-1刺激後5分でTRAF6とTAK1の結合及びMEKK3とTAK1の結合が確認され,刺激後30分にはそれらの結合は消失しました(図4B).TAK1抗体で免疫沈降しても同様な結果が確認されました(図4C).さらに,これら3分子の結合は,3分子内1分子でもないと残りの両者は結合を維持できないことをそれぞれの欠損MEFを用いて証明しました.この結果は,別々の空間で起こっている2分子同士が結合しているのではなく,TRAF6,TAK1,MEKK3の3分子同士が複合体を形成することを示唆しています.

図4 MEKK3はTAK1の活性化に必要な分子であり、TAK1やTRAF6と結合する

 さて,この3分子の複合体形成にTAK1のポリユビキチン化がどのように関与するかを,TAK1 WT MEFとTAK1 K209R MEFを用いて検討しました.驚くべきことに,TAK1 WT MEFで確認されたTRAF6とTAK1の結合(図5A),TRAF6とMEKK3の結合 (図5B),そしてTAK1とMEKK3の結合(図5C)がTAK1 K209R MEFでは殆ど消失しました.これらの結果からTAK1のポリユビキチン化はTRAF6,TAK1,MEKK3から構成されるIL-1シグナル依存的な複合体形成に必要であることが示されました.そして,この複合体形成により,MEKK3によるTAK1の活性化が促され,続いてNF-κB活性化が導かれることが示唆されました.

図5 TAK1のポリユビキチン化が起こらない状況では複合体が形成されない

  • TRAF6は機構的・時間的に異なる2つの経路を用い、NF-kB活性を精密に制御する

 上述したTAK1のポリユビキチン化を介する経路はTRAF6のRINGドメインを必要としますが,我々は以前,TRAF6の欠損MEFにTRAF6のRINGドメインを欠損した変異体を安定発現させた細胞(TRAF6 ΔR MEF)でも,IL-1シグナル依存的なNF-κB活性は残存すること,そしてRINGドメインとZincドメインの両方を欠損させたTRAF6を安定発現させた細胞ではNF-κB活性は完全に消失することから,TRAF6のZincドメインから生じるNF-κB活性経路が存在することを明らかにしました(Kobayashi et al. EMBO J. 20, 1271-1280, 2001). RINGドメインを介す経路をRING経路,Zincドメイン経路をZinc経路と便宜的に呼びます.
 本研究においては,このZinc経路の分子機構と生理機能についての解析を試みました.まず,Zinc経路に関与する分子を同定するため,TRAF6 ΔR MEFに対してsiRNAを用いたTAK1,又はMEKK3の遺伝子発現抑制をした上で,IL-1シグナル依存的なNF-κB活性を検討したところ,MEKK3の発現抑制により残存していたNF-kB活性は完全に消失しましたが,TAK1の発現抑制ではほとんど変化がありませんでした.これよりZinc経路にはTAK1ではなく,MEKK3が関与していることが明らかとなりました.
 次にその生理機能を明らかにするため,Zinc経路のみが機能しないTRAF6変異体の構築を試みました.TRAF6は5つのZinc ドメインを持つと考えられていますが,N末端側から数えて5番目のZincドメインの機能を潰した変異体(TRAF6 mZ5)をTRAF6欠損MEFに安定発現させた細胞(TRAF6 mZ5 MEF)では,TAK1の活性化に影響を与えないが,NF-κB活性の減弱が認められ,さらにTAK1の遺伝子発現抑制により,NF-κB活性は完全に消失しました.従って,TRAF6 mZ5はRING経路に関与するTAK1の活性には変化を与えないが,Zinc経路は機能しない変異体であることを示しています.
 そして,野生型のTRAF6と上述した2種類のTRAF6変異体をTRAF6欠損MEFに安定発現させた細胞(TRAF6 WT MEF,TRAF6 ΔR MEF,TRAF6 mZ5 MEF)におけるEMSAを用いたNF-κBのDNA結合能力を比較しました.TRAF6 WT MEFにおいては,NF-κBのDNA結合能力はIL-1刺激後15分で確認でき,30分でピークを迎え,60分でやや減弱しますが,TRAF6 ΔR MEFでは,30分後で初めて確認され,60分後に増大しました.一方,TRAF6 mZ5 MEFでは,15分後で確認され,30分後でも増大せず,60分後には消失していました(図6).TRAF6 ΔR MEFとTRAF6 mZ5 MEFにおけるNF-κBのDNA結合能力を加算させたものが,ちょうどTRAF6 WT MEFのものと一致していました.これより,RING経路は時間的に早いNF-κB活性を担当し,一方Zinc経路は時間的に遅いNF-κB活性を担当することが示され,両方の経路は機構的(ユビキチン化を伴うか否か)に異なるだけではなく,時間的(RING経路が早く,Zinc経路が遅い)にも異なったNF-κB活性経路であることが示されました.

図6 TRAF6は時間的に異なる2つのNF-kB活性化経路(RING経路、Zinc経路)を使い分ける

 さらに,Zinc経路の生理機能を理解するためにNF-κB標的遺伝子の発現に着目しました.Real-time PCRを用いてIL-1刺激後のNF-κB標的遺伝子のmRNA量を比較検討したところ,TRAF6-WT MEFと比べてTRAF6-mZ5 MEFではIL-6,IRF1の発現量は僅かな減少に留まりましたが,TNFa,CCL2,CXCL10の発現量は顕著な減少が見られました.これらの結果から,Zinc経路が一群のNF-κB標的遺伝子の発現誘導に重要な役割を果たしていることが明らかになりました.NF-κB標的遺伝子の中には,その発現がMAPKの1つであるp38に依存的なNF-kB標的遺伝子群(IL-6,IRF1,ICAM1)と依存性の低い遺伝子群(TNFa,CCL2)が存在することが最近報告されました.また本研究において,TRAF6-mZ5 MEFではNF-κB活性に減弱が見られますが,p38の活性には殆ど変化を与えませんでした.どうやら,Zinc経路はp38に依存性の低い NF-κB標的遺伝子の発現誘導において機能しているように思われますが,結論するには更なる解析が必要です.

図7 Zinc経路は特有のNF-kB標的遺伝子群を発現誘導する機能を持つ

  • まとめと今後の課題

 本研究において,IL-1シグナル依存的にTRAF6,TAK1,MEKK3がシグナル複合体を形成することを示し,この複合体形成にはTAK1の209番目のリジンのK63型ポリユビキチン化が必要であることを見出しました.リン酸化酵素であるTAK1自身がK63型ポリユビキチン化を受けることで,シグナル複合体形成を促し,自身を活性化させるという全く新しいシグナル制御機構を発見しました.また,TRAF6がドメインごとに機構的,時間的に異なる2つのNF-κB活性化経路を使い分けていることを証明しました.それぞれの経路に依存度が高い転写産物群が存在することから,『TRAF6が下流の分子群を巧妙に操作する指揮者としての役割を果たすことで,IL-1シグナルが誘導する炎症反応や免疫応答を精密に制御する』というTRAF6による二相性NF-κB活性化モデルを提唱に至りました(図8).
 今後の課題としては,TAK1のポリユビキチン化が複合体形成を誘導する分子機構の解明が挙げられます.ポリユビキチン化はシグナル分子の複合体形成のための足場となると考えられているため,TAK1のポリユビキチン鎖にMEKK3やTRAF6等のシグナル分子が結合することにより,複合体が安定化し,シグナルが増強される機構を考えています.また,RING経路からZinc経路へのスイッチング・システムの解明も重要課題の1つです.
 IL-1シグナルは炎症反応や感染防御などの免疫反応,さらには癌の悪性化にも寄与することが知られており,医療への応用の面でも大事なシグナルです.ここで記したようにIL-1シグナルにおいてTRAF6は鍵となる分子であるため,TRAF6によるシグナル伝達機構をさらに詳細に解明することで,その知見を基盤とした医療への応用が期待されます.

図8 IL-1シグナルにおけるTRAF6による二相性NF-kB活性化モデル